読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日々の昭和館 (2)  エキストラ

 その日、大好きな寅さんの最新作を観るため、僕は新宿松竹へと向った。

もう90年代になっていたので既に寅さんはすっかりパワーダウンしており、主役はあ のクソ忌々しい満男のヤローである。

はっきり言って内容的には全っ然面白くないのだが、それでも男として生まれたからには寅さんを観続けねばならない。こ れは当然の義務である。


画面からはユル~いギャグが垂れ流されつづけ、場内にはじいさんたちの笑い声が響き渡る。僕は半分苦行のような気分でそれを観続けていた。
しかし、場面がとらやの店内になった途端、僕の目はスクリーンに釘づけになった。
「小島さん……! ?」
なんと、昭和館のモギリ兼掃除のオバチャンの小島さんの姿がシネマスコープの大画面に映し出されているではないか !
小島さんはとらやの客として団子を食ったりお茶を飲んだり、画面の片隅でギンギンにアピールをカマしていた。

それにしても一体なんで小島さんが寅さんに出演しているのだろうか。翌日、小島さんに聞いてみると、
「いや~、バレちゃった? 実は昭和館の仕事がお休みの日に内緒でエキストラのアルバイトしてるのよ~。寅さんは何本か出てるし、テレビのお仕事なんかもしてるのよ~」
と、自慢の金歯を見せながら笑って答えた。


それ以来、注意深くテレビを見ていると、度々小島さんの姿を見かけるようになった。ドラマの通行人役やら、バラエティ番組の笑い屋やら、B級ニュース大全集みたいな番組では再現VTRでシルバー風俗嬢の役なんかもやっていた。
「これ、撮影のときにタレントさんと一緒に撮った写真よ。見て見て~」
と、見せられた写真の束には、久本雅美山本リンダら、数々の芸能人と小島さんとのツーショットが満載されていた。そのほとんどが学会タレントだったのが少々気にはなったのだが……。

 

昭和館の閉館が決まったあと、僕はなかなか次の仕事が見つからなかった。

就職活動は全滅、三十代後半で何の資格も持たない僕は失業と閉館のWショックですっかり意気消沈していた。
そんな元気のない僕を見かねた小島さんが、ある日再就職の世話を申し出てくれた。

自分は清掃会社に就職が決まったので、あなたも紹介してあげるからそこへいらっしゃいと。

小島さんはその会社の住所と電話番号と担当者の名前が書かれたメモを僕に手渡した。
「話はもう通してあるから、私の名前を言ってくれれば絶対に雇ってくれるからね」
小島さんの気持ちはとてもありがたく、本当にうれしかったのだが、映画館への再就職にこだわっていた僕は、散々悩んだあげくその申し出を断ってしまった。

その時の小島さんの残念そうな表情は、今でも忘れられない。

 

やがて昭和館は閉館となり、それっきり小島さんとは音信不通になってしまった。風の噂では現在小島さんは露天商の手伝いをしているらしい。


あれから小島さんの姿をテレビで見かけたことはない。